“ジャズ語”なるものがあると聞いたことがある。ミュージシャン同士で楽器でしゃべることができるのだという。いってみれば動物同士の会話のようなもので、もし自分にもそんな言葉ができるようになったらいいなと思った。そんなことを考えていたのは20年ぐらい前のことなのだが、そのころ、下北沢のジャズ喫茶「マサコ」でこのアルバムを聴いたときに、それまでにない体験をした。1曲目の「エリントン・メドレー」はミンガスのベースソロによる「アイ・ガット・イット・バッド」から始まるのだが、このとき、ミンガスのソロがまるで私に話しかけているように聴こえてきたのだ。
最初は何か遠くでぶつぶつと小さくつぶやいているような感じだったのが、だんだんその声がハッキリと聴こえるようになり、しまいにはミンガスが何を言いたいのかがわかるような気がしてきたのだ。そのときのミンガスは、まるで自分の惚れた女性に向かって求愛をしているようだった。ロマンティックというよりも、どこか弁解じみているというか、「オレはこんな男でこういう不器用な生き方しかできないんだ」みたいなことを切々と訴えかけているように聴こえてきた。それは、音を言葉に翻訳して理解するというよりも、ダイレクトにその意味が脳に伝わってくる、テレパシーのような感じだった。それがジャズ語を話せるということなのかどうかはまったくわからないのだが、ジャズを
聴いていてそんなふうに感じたのは初めてだった。
このアルバムはミンガスのライブアルバムの中でもよく売れているようだし、たしかにいい出来だ。ただ、これよりもっと素晴らしいミンガス・バンドの演奏はいっぱいある。だが、ここで聴ける彼のベース・ソロは、彼のレコーディング・キャリアの中でもベストではないかと思う。